物価上昇は政権交代のきっかけになるか?「インフレを放置すれば政権は確実に倒れる」という民主主義の残酷な掟【林直人】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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物価上昇は政権交代のきっかけになるか?「インフレを放置すれば政権は確実に倒れる」という民主主義の残酷な掟【林直人】

先進国、過去25年を振り返る〜政権の生死を決めるのは国会ではなくスーパーのレジ

 

結論:数字が下す「政治の死刑判決」

 表2の結果は、単なる統計表ではない。

 それは「インフレを放置すれば政権は確実に倒れる」という民主主義の残酷な掟を告げている。

 有権者の怒りを呼び覚ますのは、国会演説ではなくスーパーのレシートだ。

 そしてインフレは、政権にとって最も確実な暗殺者――「静かなるクーデターの引き金」なのである。

 

経済財政諮問会議で発言する石破茂首相(2025年8月07日)

 

【「政権交代ショック」が市場を揺るがす――静かなる経済の地殻変動】

 

■2.1 序論:権力の椅子が動くたびに、経済の地盤は鳴動する

 政権交代は単なる首相交代劇ではない。

 それは政策の不確実性という地震を発生させ、国家経済を別のレジームへと引きずり込む引き金だ。

 新政権は「変革」を旗印に登場し、財政拡大という麻薬を投与する。だがそれは同時に市場を疑心暗鬼に陥れ、金利・為替・物価をじわじわと蝕んでいく。

 とりわけ危険なのは、単なる人事交代ではなく「イデオロギーの転換」を伴う政権交代だ。

 右派から左派へのシフトは、単なる首相交代とは異なり、市場にとっては大規模爆薬の点火と同義である。

 

■2.2 分析手法:PVAR――政治と経済の相互依存を暴く監視カメラ

 採用されたのは パネル・ベクトル自己回帰(PVAR)モデル

 これは政治と経済の因果を“動的に可視化する監視カメラ”だ。

・Gov_Change:政権交代という政治ショック

・Gov_Spending:政府支出

・Interest_Rate:長期金利

・Inflation:インフレ率

・Exchange_Rate:為替

 そしてアウトプットは――インパルス応答関数(IRF

 これは「政権交代ショック」が経済を何年にわたり揺さぶるかを時系列で描き出す。

 

■2.3 分析結果:経済のドミノ倒し

1:政府支出
 政権交代直後は静かだ。しかし、2~4四半期後、新政権が動き出すと政府支出が有意に増大する。公約実現? 支持者への利益配分? その裏で財政は確実に膨らんでいく。

2:長期金利
 市場は愚かではない。政権交代から3~5四半期後、長期金利はじわじわ上昇を開始する。理由は明白――市場は財政赤字の拡大を見透かし、国債にリスクプレミアムを要求し始めるのだ。

3:インフレ率
 インフレは即座に反応しない。だが6~8四半期後――つまり政権誕生から2年近く経った頃――静かな炎が物価を炙り始める。需要拡大のツケは、遅れて必ず現れる。

4:為替レート
 通貨市場の反応は速い。政権交代後、短期的に通貨は減価する。不確実性と財政懸念が資本を逃避させるからだ。だがその効果は一時的、OECD市場は“したたか”である。

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林直人

はやし なおと

起業家・作家

1991 年宮城県生まれ。仙台第二高等学校出身。独学で慶應義塾大学環境情報学部に入学(一般入試・英語受験)。在学中に勉強アプリをつくり起業するも大失敗する。その後、毎日10 分指導するネット家庭教師「毎日学習会」を設立し、現在に至る。毎年100 人以上の生徒を指導し、早稲田・慶應・上智を中心に合格者を多数輩出している(2021 年早慶上智進学者38 名・7/20 時点)。著書に『うつでも起業で生きていく』(河出書房新社)、『人間ぎらいのマーケティング人と会わずに稼ぐ方法』(実業之日本社)などがある。連絡先:https://x.com/everydayjukucho

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