物価上昇は政権交代のきっかけになるか?「インフレを放置すれば政権は確実に倒れる」という民主主義の残酷な掟【林直人】
先進国、過去25年を振り返る〜政権の生死を決めるのは国会ではなくスーパーのレジ
■結論:数字が下す「政治の死刑判決」
表2の結果は、単なる統計表ではない。
それは「インフレを放置すれば政権は確実に倒れる」という民主主義の残酷な掟を告げている。
有権者の怒りを呼び覚ますのは、国会演説ではなくスーパーのレシートだ。
そしてインフレは、政権にとって最も確実な暗殺者――「静かなるクーデターの引き金」なのである。

【「政権交代ショック」が市場を揺るがす――静かなる経済の地殻変動】
■2.1 序論:権力の椅子が動くたびに、経済の地盤は鳴動する
政権交代は単なる首相交代劇ではない。
それは政策の不確実性という“地震”を発生させ、国家経済を別のレジームへと引きずり込む引き金だ。
新政権は「変革」を旗印に登場し、財政拡大という麻薬を投与する。だがそれは同時に市場を疑心暗鬼に陥れ、金利・為替・物価をじわじわと蝕んでいく。
とりわけ危険なのは、単なる人事交代ではなく「イデオロギーの転換」を伴う政権交代だ。
右派から左派へのシフトは、単なる首相交代とは異なり、市場にとっては大規模爆薬の点火と同義である。
■2.2 分析手法:PVAR――政治と経済の相互依存を暴く“監視カメラ”
採用されたのは パネル・ベクトル自己回帰(PVAR)モデル。
これは政治と経済の因果を“動的に可視化する監視カメラ”だ。
・Gov_Change:政権交代という政治ショック
・Gov_Spending:政府支出
・Interest_Rate:長期金利
・Inflation:インフレ率
・Exchange_Rate:為替
そしてアウトプットは――インパルス応答関数(IRF)。
これは「政権交代ショック」が経済を何年にわたり揺さぶるかを時系列で描き出す。
■2.3 分析結果:経済のドミノ倒し
1:政府支出
政権交代直後は静かだ。しかし、2~4四半期後、新政権が動き出すと政府支出が有意に増大する。公約実現? 支持者への利益配分? その裏で財政は確実に膨らんでいく。
2:長期金利
市場は愚かではない。政権交代から3~5四半期後、長期金利はじわじわ上昇を開始する。理由は明白――市場は財政赤字の拡大を見透かし、国債にリスクプレミアムを要求し始めるのだ。
3:インフレ率
インフレは即座に反応しない。だが6~8四半期後――つまり政権誕生から2年近く経った頃――静かな炎が物価を炙り始める。需要拡大のツケは、遅れて必ず現れる。
4:為替レート
通貨市場の反応は速い。政権交代後、短期的に通貨は減価する。不確実性と財政懸念が資本を逃避させるからだ。だがその効果は一時的、OECD市場は“したたか”である。